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2月11日、聖路加国際大学にて公開シンポジウム「小児がん治療の現在」に参加させていただきました。帰省で東京を経由するタイミングで何気なくGoogle 検索し、素晴らしい機会に巡り会えました。


◼︎ がんと闘う"子どもの目" からみた入院という体験
・医療者にとっては当たり前に見えても、子どもたちにとって入院は怖い体験。急に家族や友達から離れ、なじみのない孤独な生活が始まり、慣れない環境で怖いことばかりが起きて、子どもらしい日常の生活が失われる
・病気のこと(なぜここで生活するのか、体の中で何が起こっているのか、闘う相手が何なのか、どのような闘いが待っているのか)を正しく伝えてあげることが大切。仲間(医療チームの人たち)のこともしっかり伝える(→ ジャニスというキャラクターを主人公にして、絵本のストーリーのような形で伝える。cf.) 『チャーリー・ブラウンなぜなんだい?― ―ともだちがおもい病気になったとき ―』(岩崎書店)英語版アニメが You Tube で視聴できます。3パートに区切られています。パート2で泣いてしまいます...)
・子どもたちにとっては、毎日繰り返される検査や処置が一番つらい。腰椎穿刺も年に10回以上行われたりする。だから、プレパレーション(後述)を通して、心理的な面で支えてあげることが大切
子どもにやさしい環境づくりも大切。「処置室の扉には何かわくわくさせる絵があったほうがいい」「薬品や白いシーツの処置台がすぐに目に留まると怖く感じるんじゃないかな」「可動式のライトは怖い顔に見えるんじゃないかな?」「やっぱり音楽が欲しいなー」といったアイデアが出る。IKEA で装飾品を買い揃えたことも
・子どもたちは、遊びがいっぱいある環境、プライバシーが保たれること、希望を聞いてもらえることを求めている

◼︎ プレパレーション
ぬいぐるみ(ベールちゃんとチャーリーくん)を用いて検査や処置のことを伝える。さらに、本人が実際に処置を体験してみることで心構えをつくる。ぬいぐるみに対して CVライン挿入、点滴、腰椎穿刺、心電図、脳波検査を自ら行って体験し、冷たい感覚、怖い感覚を想像する。MRI や CT の模型(ヒノキで作られ、いい香りがする)も用いられる。ゴミ箱や円座を用いて、ベットの上に模擬 MRI 装置を作って練習し、こわがらずに本番ができた2歳6ヶ月のスーパーボーイもいた
・子どもがこれから直面し体験する恐怖、心理的な混乱を緩和し、子どもがその子なりに向かい、乗り越える力を発揮できるよう支える。また、① 正しい情報を与える ② 情緒表現の機会 ③ 信頼関係の構築、という点でも大きな意義がある
・いつも「される」ことばかりの毎日を送る子どもたちが、遊びを通して、自ら「する」立場に変わることで、コントロール感を高められる
・ 子どもの「今」だけでなく、子どもの「将来」の力も支えたい
・ 医療者にとっては「たった数分」、でも本人にとっては「一生」
・チャイルドライフスペシャリスト(CLS)が重要な役割を果たす

◼︎ 子どもに真実を伝えるということ
・真実を伝えるための3つの心構え(先生の手書きメモ):
 ① うそをつかない、② わかるように、③ あとのことを考えて
・必要な3つの基盤:
 ① 丁寧に支えられる医療チーム、② 物事を深く考える親、③ 子どもの周囲の状況
・真実を伝えることの3つの意味:
 ① 困難に立ち向かっていく力、② 信頼関係の維持、③ 病気であるのは子ども自身
・造血幹細胞移植後の副作用のことも、ぬいぐるみを使ったフォトブックで伝える。「大変なことが起こるけど、ぜんぶ元どおりになるよ」

◼︎ 家族を支える
・家族は様々な問題を抱える:仕事のこと/家のこと/子どもや兄弟にどうやって病気のことを伝えるか/誰に相談するか
・他の患者家族とつながりをつくることができれば、相談相手ができ、居場所が生まれ、孤独感を軽減することができる
・『家族のためのティータイム』を月1回開催:親のニーズをくみとる/親同士の交流(ピアサポート)/育児支援/リラックスできる場の提供/知識提供/フリートーク/創作活動
・医療者と接点を持つことの少ない父親同士が集まる会も企画されている(なかなか人が集まらないという現状もあるが)
がんと闘う子の兄弟は、親御さんから十分に気にかけてもらえなくなり、孤独で辛い思いを抱えたり、病院に来るのを嫌がったりするようになる。きょうだいも支えてあげることが必要
・きょうだいが来院を楽しみにできるよう、きょうだいを主役にした取り組み、『きょうだいレンジャー』が企画され、①ミーティングへのきょうだいの参入、②きょうだいのための病院ツアー、③きょうだいだけのスペシャルイベント(来院ポイントサービス、ガチャガチャ景品、『ロビー de お・も・て・な・し』)が行われている!

◼︎ 小児がんにおけるチーム医療
・臨床心理士(小児心理士):PTSD、家族にも対応
・病院保育士
チャイルドライフスペシャリスト(CLS):子どもの人生のスペシャリスト。発達の評価とサポート、遊びの提供、プレパレーション、処置や検査のサポートを行う
・ソーシャルワーカー:学校生活面での支えも(e.g. 理解のない同級生にからかわれないように)
・チャプレン:スピリチュアルケアの専門家
・グリーフケア:あなぐまが亡くなる絵本を用いて(追記:『わすれられないおくりもの』(評論社):「長いトンネルのむこうに行くよ、さようなら アナグマより」という手紙を残して――心に残るストーリーです)
・栄養科:匂い感覚、味覚、食事へのこだわりの変化に対応
・院内学級
・イベントの企画(学童同士で行うもの、バーベキュー、ハロウィン)
・子ども医療支援室
・集学的治療を行うための多職種会議(毎週/30年前から行われている):シドニー・ファーバーの推し進めたトータルケアの概念
・学生ミーティング:学童が自主的に参加して行われる(2週に1回)
・外来フォローアップ:週1回の専門外来、内分泌のフォローアップ、知的発達のフォローアップ

真の心のケア、チーム医療のあり方を知り、強い感銘を受けました。
プレパレーションという取り組みには特に心を動かされました。



〜 その他、医学的事項 〜 
◼︎ 小児がんの疫学、治療成績
・全国で1年に2000-2500人が新たに小児がんに罹患する
・この数十年で予後がかなり改善されてきたが、1〜2割の予後不良の患者さんをどのように救っていくかということが大きな課題
脳腫瘍神経芽腫骨肉腫は依然として治りにくい
・神経芽腫の治療成績は欧米と比較して日本で低い
・米国では個別化医療の導入により、患者さんの予後が大きく改善されている
15〜39歳(AYA世代)のがん治療の最適化が遅れている(AYA : Adolescents and Young Adult)。臨床研究の数が極めて少ないこととの相関が証明されている
・AYA世代の急性リンパ性白血病(AYA-ALL)の患者さんに対して、成人型の治療を行うよりも小児型の治療を行う方が治療成績が良いという結果が報告されている

◼︎ 小児がんの特徴と症状
① 成人がんと比較してきわめて稀
② 未分化で急速に進行するものが多い
③ 化学療法に対する感受性が高い
④ 症状が非特異的で多岐にわたる

・同じ ALL でも患者さんごとに症状の現れ方が全く異なることもある
・症状が続く、あるいは通常の治療で改善しない、という経過から初めて小児がんが疑われるケースが多い
・(意外だが)診断までに要する時間は、多くの小児がんで予後に関連しない(Lancet Oncol., 2012; 13: e445-59)…約2万人のメタ解析
Oncological Emergency への対応は重要:頭蓋内圧亢進症、腫瘍崩壊症候群

◼︎ 日本の小児がん臨床試験
・これまで複数存在していた臨床試験グループが、JCCGというグループに一本化され、この春からついにスタートする
・病理診断は中央病理診断というシステムでまとめられている
・利益相反マネジメントが重要!

◼︎ 成人後のフォロー
・体力面、身体機能面、就労面で問題が生じる
・現在は職業訓練のサポートも行われている
・障害者認定はなかなか得られない現状がある
晩期合併症(Late effect):成長発達、内分泌、低身長、骨筋肉機能、皮膚脱毛、肝臓…
・成人移行医療:①診断・治療 → ②寛解持続 → ③ヘルスケア

◼︎ 新しい小児がんの移植治療
キメラ抗原受容体導入T細胞(Chimeric Antigen Receptor: CAR)
・CD19 に対する CAR 遺伝子を患者さんのTリンパ球に導入して作製
・特異的な抗腫瘍効果を発揮しつつ、移植関連毒性を抑えられる
・米国ではすでに行われている。日本でも近い将来試みられる
② 患者由来 Tリンパ球から作製した iPS 細胞
・免疫記憶を有する
・細胞の耐久性に優れ、がん細胞との消耗戦に有利
③ キメラ抗原受容体遺伝子改変NK細胞

都内のがん専門病院で行われた1日見学会に参加しました。

もともとがん医療に興味があり、後期研修先として今回の専門病院を志望する可能性も考えてきました。そのため、医学生のうちからセミナーや見学会のチャンスを逃さないようにしたいと思い、病院のサイトをブックマーク登録してありました。今回の見学会も、6月中旬に何気なくブックマークをチェックしたことで発見できました。

当日は希望通り、小児腫瘍科と緩和医療科を回ることができました。 
個別で先生の下に付いて各科の見学をさせていただいたあと、病院全体の説明を4人の先生からお聞きしました。

夕方には懇親会もあり、築地市場や浜の離宮、レインボーブリッジ、フジテレビを臨む病院内展望レストランでビュッフェ*\(^o^)/*  この時にも、各科の先生、そして偶然いらっしゃった新潟大出身のレジデントとみっちりお話するチャンスが得られました。

専門病院のため初期研修プログラムはなく、見学者も研修医(と薬学部6年生)の方がほとんどでしたが、医学生として行く意義も大有りだと思いました。


<小児腫瘍科>
・子ども達を支えるための施設環境づくり、教育、イベント内容が印象的でした。小中学校の先生が来られて学習を支援している様子も見学させてもらいました。別れ際、笑顔で手を振ると、子ども達も笑顔で手を振ってくれました。
・先生のご経歴と今後の展望を聞かせていただきました。成人の他のがんに用いられる薬で、いま治せない小児がんの患者さんを治療できるようにしたい、という先生の思いを聞かせていただきました。
・難病とたたかう子どもたちをサポートする「そらぷち」という北海道のキッズキャンプを紹介してもらいました。サポーターとして力になりたいです。
・来年にまたじっくり見学させてほしい旨をお伝えし、先生から名刺をいただきました。


<緩和医療科>
・先生が患者さんの訴えに傾聴される姿勢、そしてその過程で具体的にどのようにお声かけされていたかを学ぶことができました。
・カンファレンスでは、医療者同士が互いを思いやり、支え合っていた雰囲気が魅力的でした。「自分たちにはできないこともあるけれども、患者さんのためにプロとしての仕事を全うしていこう」というのが共通の目標となっていました。その目標を互いにストレートに語りかけ、勇気づけあっていた様子が今でも忘れられません。プロフェッショナルが結集して形作られるチーム医療の絆に強い魅力を感じました。


<新潟大卒の後期レジデントとのお話>
・先生は呼吸器領域に興味を持たれており、僕も大学の授業で呼吸器に興味を抱いていたので、夢中でお話をお聞きしました。腫瘍と感染症が密接に関連する呼吸器がん、肝臓がん、血液腫瘍の分野に改めて興味を感じました。
・がん専門病院での1年目ローテーションと、それ以前のキャリアでのローテーションとの違いに関して、具体的にお聞きできました。今の専門病院には、優れた腫瘍総合医になるための包括的なプログラムがあることを教えていただきました。
・それた話題もなく、腫瘍医としてのお話をずっと熱く語って下さり、「将来自分も同じようなことができる先輩になりたい」と強い憧れを抱きました。お会いできてとても嬉しかったです。


今夜は東京で一泊し、明日午後から熱海の旅館で一泊二日の緩和ケアセミナーに参加します。日本緩和医療学会企画のセミナーです。

午前は東海道在来線のグリーン席(+780円)で、少し贅沢な電車の旅を楽しみたいと思います。
 

国立がんセンター中央病院にて、「がんの痛み」に関する市民公開セミナーに参加しました。

患者さんやそのご家族と同じ目線で、痛み(がんに限らない)について学ぶ機会を得たいと思ったのが参加のきっかけでした。


◼︎ 痛みをこらえる患者さんはいっぱいいらっしゃる
・昼間は看護師さんたちに「大丈夫、大丈夫」と言いながら、夜中には疼いて痛みに堪えている
・痛みの悪化=がんの進行=死に近づいている証拠 と捉えてしまい、痛みをこらえようとする
・「いい患者で居なければいけない」という遠慮があり、主治医の顔色を見ながら痛みのことを伝えている
・「どうせ死ぬんだから」と、やけになって痛み止めやモルヒネを使わない患者さんでは、強い痛みがかえって人格の変貌を助長することになる。患者さんが医療者を信頼しきれていない、ということがその根底にある
・患者さんの方から積極的に痛みを訴えること、主治医との双方向の説明が十分になされることが大切
・医療者も患者さんの苦痛を毎日徹底してスクリーニングする必要がある(除痛率、QOLなど)。しかしそれは容易なことではない


◼︎ 患者さんの多くは 緩和ケア=終末期医療 と思ってしまう
・緩和ケア、モルヒネを勧められたら「私はもうダメなんだ」と思ってしまい、「嫌だ」と拒否してしまう
・緩和ケア=終末期医療 では決してないことや、治療初期段階から開始させる緩和ケアの意義について、患者さんに知ってもらう必要がある


◼︎ 心理的な痛みを和らげてあげることも大切
・「見捨てられること、苦痛の中で死んでいくことだけはいやだ」
・がん患者さん同士の集いの場があるということは重要。自分の居場所がある喜びを感じられることや、自分ががんであることを知ってくれる仲間がいること、自分の痛みを知ってくれる人がいることはとても大切なこと
『治すこと 時々、和らげること しばしば、慰めること いつも』(“ To cure occasionally, to relieve often, to comfort always”)(アンブロワーズ・パレ) 


◼︎ その他、印象的だったお話
・終末期に現れる患者さんの幻覚症状として、つじつまが合わないことを言うようになったり、暴言を吐くようになったりすることもある。ご家族の方も、幻覚症状に関する十分な知識が得られないまま、患者さんに十分向き合えないでいることがある
・「5年生存率というのは、私たち患者にとって嫌な言葉」
・「がんと診断された時は、家族に内緒で治療できるか、仕事は続けられるか、という2つの質問に対して主治医に回答してもらった。そのことしか記憶にない。あとは頭が真っ白で何も覚えていない」
・「再発が何を意味するか、わかっていた」


質疑応答の時間中、中央病院の先生の一人と何度も何度も目が合いました。先生の目線はとても鋭かったです。話を聞いてひたすらメモをとっていた僕のことを、若いがん患者だと推測されたのか、がん患者の家族と推測されたのか、医療関係者と推測されたのか、全く分かりません。しかし、その時の僕は、患者さんの視点、ご家族の視点、医療関係者としての視点を、偏りなく確かに自分の中に重ね合わせていた気がします。今後、精進していくにつれて医療関係者としての視点が優位になっていくのかもしれませんが、「三者の視点を重ね合わせる姿勢」は見失ってはいけないと感じました。

身体的、心理社会的、スピリチュアルな苦痛、という、患者さんのもつ様々な痛みに関して、表面的なことを学ぶ機会はあっても、その内実に触れる機会はなかなかありません。今回のセミナーは、次のステップにつながる重要な経験になりました。

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