5月2〜4日、北海道滝川市に行ってきました。
キッズキャンプのボランティア研修。

病気の子どもたちやその家族が、自然の中で病気のことを忘れて笑顔で楽しいときを過ごせる夢のキャンプ。日本初となる、医療施設が完備されたキャンプ場です。

10年以上前にプロジェクトを立ち上げた方々の思いが形となり、2012年までに、事務棟、医療棟、食堂&浴室棟、宿泊棟が完成しました。

また、SeriousFun Children's Network(俳優、故ポール・ニューマン氏が米国に創設した、難病の子ども達とその家族のためのキャンプ場の世界的なネットワーク)団体から、アジア初となる公認を受けたようです。 

いよいよ、これから本格稼働に向けて動きだすことになりそうです。


今回の研修は、キャンプボランティアとしてのあり方を学ぶだけでなく、自分が将来医師としてどうあるべきかをも深く突き詰められる、貴重な経験となりました。


☆ 全て寄付とボランティアの力で成り立っている
紹介動画では「建設予定」となっていた建物群が立派に完成し、キャンプ場らしくなっていました。今後は、雨の日でも乗馬プログラムができるような屋根付き馬場の造設や、ソチのパラリンピックで用いられたバリアフリーの移動用カート導入が計画されているそうです!
建物やその内外にある備品、ぬいぐるみ/編みぐるみなど、一つ一つに込められた、寄付をしてくださった方々の思いを想像すると、胸にこみ上げるものがあります。
また、キャンプをサポートしたいという共通の思いをもつボランティアスタッフが集まり形成される雰囲気や空間も、心の底から温かみを感じるものでした。


☆ 驚くほど多くの工夫がこらされている
ほんの一例にすぎませんが...
・手洗い場は、車いすの子たちでも利用できるような形に設計されている
・木の上に作られた家(ツリーハウス)にも、車椅子のまま行けるように作られている
・大浴場の浴槽は、足の不自由な子でも一人で入れるように設計されている
・大浴場の脱衣室に何気なく置かれているソファの上を見上げると、その天井にはカーテンレールが取り付けられている(→いざという時にすぐにカーテンで覆って、診察台として使えるように設置されている)
・点滴台は木製で、クマやヒヨコ、雲の形をした飾りが取り付けられており、点滴台のようには見えない。子どもたちに恐怖心を感じさせない
・アレルギーで普通のソーセージが食べられない子のために、魚肉ソーセージを使ってそっくりのメニューで提供するなど、少しでも "みんなと同じ" ものを共有できるよう配慮している

ディズニーやジブリ美術館に存在するような、特別感、ディテールへのこだわり、ホスピタリティが随所にみられました。


☆ 生きる力を信じる覚悟
ある一人の女の子のストーリーが今も忘れられません。その子は小学校に入学して間もなく入院することになりました。遠足の翌日のことだったそうです。診断は白血病。大変な治療をがんばって乗りこえたその女の子は、キャンプへの参加を心待ちにしていました。馬に乗る練習(乗馬体験にむけて)や、さくらんぼを取る練習(流しそうめんにむけて)もしていたようです。ところが、キャンプ一週間前に病気が再発。参加できなくなってしまいました。その半年後、造血幹細胞移植も功を奏さず、女の子は亡くなりました。
ご両親は、その後、自らキャンプに参加され、天国にいる娘さんに楽しい思い出を届けました。そして、丘の上にある山桜のそばのベンチに座り、夕暮れ時の空を見つめながら、ずっと泣いていたそうです。山桜の木の下には、ご遺骨の一部が眠っているとお聞きしました。
今回の研修では、その女の子を看ていた当時の看護師が食事班のボランティアをされていました。そして、お母様がゲスト講演の演者の一人でした。
『本当に大事なのが、治療なのか、生きる力なのか。重い病気と闘う子どもにとって、より大切なのは "生きる力" だと信じる、その覚悟』
当時の主治医(キャンプの代表理事)と医療スタッフを讃える、お母様のこの一言は、僕の目指す理想の医師像にも大きな影響を与えるメッセージでした。


☆ 仲間との出会い
ボランティア研修のメンバーは、経験者を含めて約35名。素敵な出会いがたくさん生まれました。僕の班のメンバーは、医学生3人(新潟、北海道、東京)、リハビリテーション学科生、小児科看護師、作業療法士、スクールカウンセラーという、多彩なバックグラウンドの7人。終始和やかな雰囲気で良いアイデアを出し合い、共有しながら、充実したグループワークができました。
隣の班には、大学1年生の時からキャンプボランティアとして活躍されている医学生(同級生)がいて、とても良い刺激をもらいました。以前のキャンプで彼女がチームを組んだ小児科医は、都内がん専門病院の先生で、昨夏の病院見学時に僕にこのキャンプを紹介してくださった先生でした。また、代表理事の著書が、参加のきっかけの一つとなった点も、共通していました。本当の同級生仲間に巡り会えた気がして、嬉しかったです。


☆ キャンプの魔法
自ら小児がんと闘い、病気と向き合ってきた方とも友達になりました。以前にキャンパーとしてキッズキャンプに参加し、今度はボランティアとして力になりたい、という思いをもっての初参加。
2日目の夕食時、隣に座らせてもらいました。最初は少し意識してしまいましたが、お話をしているうちに、すぐに打ち解けることができました。夜の語らいタイムの間も立ったまま夢中で懇談し、帰りのバスでも隣に座って話し、新千歳空港でも一緒にお昼を食べて過ごしました。
聞かせてもらったお話は、本当に貴重なものでした。主治医にも、家族にも、友達にも言えなかった、胸の内を、僕や他のスタッフに打ち明けてくれました。同級生と同じように遊んだりできなかった辛さ。同じ病室に入院していた、同じ病気を持つ同級生の死。いろいろと大変な思いをさせてしまった両親や兄弟への想い。今も続く、抗がん剤の晩期合併症の苦しみ。「こんなに自分の過去を人に話せたのは初めて。本当に良かった。これで少し気が楽になった」と言ってくれました。
やはり、辛い経験や苦しみを真正面から受け止め、傾聴し、共感してくれる人たちが集まる場だからこそ、打ち明けることができたのだと思います。

病気の子どもたちが「独りではないこと」「仲間がいること」に気づける。そして、自然に囲まれた環境で、かけがえのない思い出をその仲間と共有することで、心が癒され、笑顔がこぼれ、希望が湧いてくる。そうした『キャンプの魔法』を生み出すことこそが、このキャンプの使命だということを改めて認識しました。

「ここでボランティアをするということは、
『いのちが輝いている、とてもかけがえのない時間に、居させてもらう』
ということ。そのために自分がどうあるべきか、常に自己研磨を要する。」

キャンプディレクターが下さったこのメッセージを胸に、これからも医のサイエンスとアートの両面で、自己研磨を日々続けていかなければと思います。