わずか2日間の病院見学でしたが、学び得たものは計り知れませんでした。

◼︎ Professionalism & Interpersonal Skills
レジデント(初期研修医)、フェロー(後期研修医)、アテンディング(指導医)、教授と過ごし、肌で感じた現状の自分とのギャップにはショックを覚えました。全米トップ10にランクする小児病院の研修プログラムに抜擢される医師がどういったスキルを兼ね備えているかを身をもって学びました。教授も「ここのスタッフは本当にプロフェッショナル。皆素晴らしい先生たちばかり」と強く同意されていました。2日目の Leukemia (白血病) 外来では、ALL(急性リンパ性白血病)に罹ったダウン症患者さんのご家族二組をジョイントして、互いにつながりがもてるよう取り計らう教授の姿勢に、心が温まりました。Sickle Cell (鎌状赤血球症)外来では、日本でできないアメリカならではの貴重な見学ができました。これらの外来診察の際、2年目のレジデントにマンツーマンでお世話になりました。彼女は、近い将来は現在の科に残ってフェローシップに進みたいようで、すでに出願も終え、面接を控えているとのことでした(マッチング倍率は10倍を下回らないそうです)。つまり彼女はちょうど本命の科で自分をアピールする勝負期間の真っ只中にいた、ということになります。そのようなシチュエーションで、最高のプロフェッショナリズムを発揮して、最高の仕事を手がける姿を拝見できたのは、僕にとって本当に幸運な経験でした。

 
◼︎ System
レジデントは例えば外来診察では、患者さんと完璧なコミュニケーションを心がけながら網羅的に問診と身体所見をとって、頭の中で的確にケアプランを立て、オフィスに戻るとすぐに指導医に報告してディスカッションをする、ということを徹底的に繰り返すなかで、臨床スキルを最大限に磨くことができるように思いました。また、2年目にしてレジデントが医師としてすでに独り立ちできていることもまぎれもない事実でした。アテンディングは経験やデータに基づいた膨大な知識でレジデントの仕事を完璧にフォローし、熱意あふれる指導をされていました。各々の医師がそれぞれの立場ごとに最も重要な仕事に専念できるシステム、常に上の先生から質の高い指導を受けられるシステム、また常に周囲からの評価にさらされる中で自分が磨かれるシステム。国際的に優れた臨床医を目指すための成長の場所として、この上なく魅力的な研修システムがアメリカに存在することを確信しました。

 
◼︎ Conference 
22階のカンファレンスルームに集っていたのはアクティブな医師ばかり(50人以上。基本的にレジデントは仕事が無い限り参加するのが当たり前のよう)でした。発言力、ディスカッション力には目を見張るものがありました。アメリカの医師はほとんどがハリソンを読む、2周3周読む医師もざらにいる、指導医の中にはハリソンの編集者もいたりする、医学生でさえ UpToDate を当たり前のように活用している、といったお話は日本で伺っていましたが、確かに、カンファレンスにいらっしゃった先生たちも皆が「生きたハリソン(小児科なのでネルソン?)」のようでした。全身を診られる小児科医がもつべき医学知識体系をレジデントの時点で頭の中に完成させているように見受けられました。自分も将来、このような先生たちが集うアカデミックな環境に身を置いて知識を高めていきたいと感じました。また、カンファレンスでの建設的討論に積極的に貢献して、患者さんへの医療に還元することが、USMLE で知識を身につける最終目標の一つであるべきだという考えも強化されました。

 
◼︎ English & Communication
現状の英語能力・コミュニケーション能力では全く歯が立たないことを知りました。アメリカの臨床の現場では、同僚、コメディカル、先輩、後輩からつねに評価を受けるシステムがあり、その中にコミュニケーション能力を評価される項目(その内容もさらに3項目に細分化)がある、と聞きましたが、まさにその評価の重みを実体験しました。 英語がままならないと、患者さんとのコミュニケーション以前に、コワーカーとのコミュニケーションにおいて致命的で、信頼も評価も得られない場だとすぐにわかりました。見学中も、英語をうまく話せない自分が表に出れば出ていくほど信頼が失われていく感覚に見舞われましたし、だからと言って大人しくしていると、すぐさまコミュニケーションに欠陥のあるスタッフだとみなされてしまうことも容易に想像がつきました。今回の2年目レジデントはネイティブの中でも特に言葉遣いや表現が巧みな印象を受けましたし、声もとても綺麗で明瞭で、話運びや機転の利かせ方も本当に上手でした。Spanish 訛りの患者家族の英語もばっちり聞き取っていましたし(僕は全く聞き取れず、入力されていくカルテで内容を理解していました)、さらには、英語が話せない患者家族との日常会話を全てスペイン語で行っていました(問診の際はオンデマンドのテレビ電話同時通訳を利用していましたが)。これには大きな衝撃を受けました。

 
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・漠然とした憧れでしかなかった米国での臨床研修は、いまや本物の目標点に変わりました。その目標点に立つ未来の自分を全く想像することができないのは辛いことですが、今回見出した「将来こうありたいと思う自分」を常にイメージしながら、英語学習も、臨床実習も、USMLE対策も頑張り続けていける、高いモチベーションを得ることができました。

・2年目レジデント、アテンディングの輝いていた姿は、今後も心の中に目標そのものとして立ち続けると思います。米国で臨床研修を受けたいという夢はもう一生捨てられないものとなりました。

・どれだけ頑張っても現地の医師と肩を並べられないものがあるのは仕方がないですが、それをカバーできるだけの知識、技術、スキル、経験、人間性、日本人らしさを磨いて、優れたレジデンシー/フェローシッププログラムにマッチするにふさわしい医師、そのプログラムに必要とされる医師に成長して、いつかかならず米国臨床留学を実現させたいです。